スポーツドリンクは経口補水液のかわりになるの?

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熱中症と脱水症の対策として水分と塩分をしっかり摂りましょうという言葉をニュースで毎日耳にします。

水分補給に一番おすすめなのは経口補水液。

ですが、手作りするのは面倒だし、買うのは高いとスポーツドリンクで代用していませんか?

ちょっと待ってください!

残念ながらスポーツドリンクは経口補水液のかわりとして適切とは言えません。

その理由をご説明します。

 

【目次】

 

スポーツドリンクは経口補水液より吸収効率が低い


 

経口補水液とスポーツドリンクの塩分量

水分補給にいいとされる経口補水液の塩分濃度の目安は生理食塩水の濃度0.9%の約1/3。これは500mlのペットボトルに塩を1.5g入れた濃度です。

しかし、代表的なスポーツドリンクにはその半分以下の濃度しか入っていません。下の表は経口補水液と、市販の代表的なスポーツドリンク2商品に含まれる塩分量を比較したものです。
 

塩分量(500mlあたり)
経口補水液 1.5g
スポーツドリンクA 0.6g
スポーツドリンクB 0.5g


 
スポーツドリンクは吸収率よりも飲みやすさを優先しているため、塩分量が経口補水液より少なくなっているのです。
 

経口補水液とスポーツドリンクの糖分量

一方、糖分についてはどうでしょう?

水分補給にいいとされるブドウ糖濃度は2%前後。この濃度は静脈内への点滴に近いため吸収率がいいのですが、ブドウ糖濃度はこれ以上でも、これ以下でも、吸収率は落ちてしまいます。

スポーツドリンクには糖分がその2~3倍入っています。さらに使われているのは吸収率がいいブトウ糖ではなく、果糖ブトウ糖液糖と言われる異性化糖や砂糖であることがほとんど。緊急を要する脱水時には経口補水液ほどの吸収効率は期待できません。

下の表は経口補水液と、市販の代表的なスポーツドリンク2商品に含まれる糖分量を比較したものです。
 

糖分量(500mlあたり)
経口補水液 10g
スポーツドリンクA 31g
スポーツドリンクB 23.5g


 
スポーツドリンクは糖分が多いので2倍に薄めて飲むようにと指導されることもあると聞きますが、薄めると塩分もさらに薄まるので効果が下がってしまいます。

また、糖分を摂りすぎることで、肥満や虫歯になるリスクも上がります。子供さんが夏場の水分補給として飲むには適切ではないでしょう。スポーツドリンクはあくまで嗜好品の一種ととらえ、飲み過ぎには注意してください。

まとめると、スポーツドリンクは経口補水液に推奨される塩分量は半分以下、糖分量は2~3倍入っており、脱水改善におすすめとはいえません。
 
 

水分補給には市販の経口補水液がオススメなの?

では、日常的な水分補給には市販の経口補水液を飲むのが一番いいのでしょうか。実は市販の経口補水液にも注意してほしい点が2点あります。
 
市販の経口補水液の注意点
1.人工甘味料で甘味を加えていることが多い
2.口の中が酸性になりやすく、虫歯のリスクが上がる

人工甘味料の安全性は科学的に証明されていないものも多くあります。安全でない成分が含まれているかもしれないとすれば、日常的に飲むことはおすすめできません。

経口補水液を飲むならやはり手作りがおすすめです。しかも市販のものより安くつくのがうれしい

経口補水液の作り方

・水 1リットル
・塩 3g(小さじ1/2)
・ブドウ糖 20g(大さじ2と小さじ1/3)
または砂糖 40g(大さじ4と1/2)

 
ブドウ糖はドラッグストアや通販で購入できます。

 

 
 

水分補給に関する疑問・質問

Q.経口補水液を作ってみましたがマズいです!子供は飲んでくれそうにありません。レモン果汁を大サジ1入れると飲みやすくなるのですが問題ないですか?

A.問題ありません。果汁を入れると風味がよくなりますし、天然果汁ならクエン酸やカリウムを摂ることができます。

ただし果汁を入れるぎると糖分も入るので水分の吸収率が悪くなります。1リットルに大サジ1程度に抑えましょう。

 

Q.塩分タブレットを水やお茶と一緒に食べてもいいですか?

A.塩分タブレットで、汗と一緒に失われた塩分を補うこと自体は問題ありません。ただし、市販されている多くの塩分タブレットは、塩分に対して糖分が多めに入っていて、経口補水液ほどの吸収率は期待できないことがほとんどでしょう。

また、塩分タブレットの主成分は砂糖、ブドウ糖、水あめなど糖分中心。体によさそうだからといって食べ過ぎないようにしてください。

 
 

夏場の水分補給についてまとめ


この暑さの中、安全にがぶがぶ飲むのに一番適しているのは、手作りの経口補水液。用意するのが難しい場合は、水やお茶がいいでしょう。市販の経口補水液は糖分や虫歯に気を付けて飲みましょう。スポーツドリンクは清涼飲料水という位置づけでとらえてください。

また、スポーツドリンクについては水分の吸収率や虫歯になりやすいという点だけではなく、肥満や糖尿病予防という観点からも注意が必要です。

左巻健男教授(法政大学教職課程センター)は「知って納得!水とからだの健康」でこう述べています。

運動中にスポーツドリンクを飲みすぎるのは体によくありません。1時間程度の運動ならそれほど血糖状態は変化せず、スポーツドリンクをたくさん飲むと糖分を多くとりすぎてしまいます。

さらに炎天下で脱水症状を起こしているような場合には血液が凝縮してしまいます。そこに糖分の多いスポーツドリンクを飲むと血糖値が急激に上昇してしまい、一種の急性糖尿病状態に陥る危険性もあります

引用元:左巻健男、知って納得!水とからだの健康、東京:小学館、2008;61(1):13-23

また、スポーツドリンクをはじめとする清涼飲料水を飲む量が増えると、食生活が乱れやすいというとも言われています。

佐々木 敏教授(東京大学大学院社会予防疫学分野)は、「栄養データはこう読む!」(P162)でこう述べています。

ソフトドリンクは、むし歯のなりやすさや肥満だけが問題、ではありません。本当の怖さは、ソフトドリンクの摂取量が多い人ほど、魚介類や野菜などきちんととりたい食品群が軒並み少なく、きちんとした食事をとるという基本的な習慣を奪ってしまうことなのです

引用元:佐々木敏、栄養データはこう読む!、東京:女子栄養大学出版部、2015;154-162

暑い夏、スポーツをする子供さんにスポーツドリンクを持たせる親御さんも多いことでしょう。たまにならかまいませんが、毎日、習慣的に飲むことは避ける方が賢明です。

まだまだ厳しい暑さが続きそうですね。楽しい夏を過ごせるよう、水分補給で健康を損なわないようにしてくださいね。


(参考文献)豊田裕章「スポーツドリンク」と「経口補水液」の違いを正しく理解しよう!小児歯科臨床 2016:21(8):55-60